いろんな比較
【DX】課題多し不動産のDX化
こんにちは。住宅比較の森田です。いま様々な企業が仕事のDX化(デジタルトランスフォーメーション)により効率化を図っています。不動産業界でも、中古住宅の売買取引を透明化するプロジェクトが10年以上前に発足していますが未だ迷走しています。アメリカでは進んでいるデータ連携が日本では停滞しているのはなぜなのか。2021年11月29日の日経新聞よりご紹介します。
□会議が進まない
国土交通省が9月に立ち上げた不動産IDの官民討論会での資料には「不動産IDをつくっても、その先のここのデータ連携に国は口を出さない」と回りくどく書かれています。不動産IDとは、中古住宅取引をめぐる関係主体(不動産会社、物件情報サイト、市区町村の道路課など)がもつ情報を円滑にやり取りすることに意味があります。実は不動産IDが構想されたのは2008年の国交省研究会にまでさかのぼります。
このとき個人のプライバシー保護などを理由に不動産業界が賛同しませんでした。都市計画などの行政情報と不動産業者間のデータベース「レインズ」を連携させる「不動産総合データベース」も初歩的な試験運用をしただけで立ち消えになりました。
□目標はアメリカの制度
中古住宅の取引データベースとして国交省がお手本にしてきたのがアメリカの「MLS」です。しかし日本の「レインズ」は上の図からも分かるようにMLSに比べてかなり閉鎖的といえます。そしてデータの量や質も不十分です。「専任契約」「専属専任契約」という、売主と一対一の契約をした業者は5~7日以内にレインズに物件を登録する義務がありますが、違反が少なくありません。自社で買主も見つけて売主・買主それぞれから仲介手数料が取れる「両手取引」を狙っているからです。両手取引は不動産会社の大きな利益になりますが、高く売りたい売主と安く買いたい買主との利益相反がかねてから指摘されていました。MLSは違反に関して除名など厳しい処罰がありますが、日本は罰則も甘く、やったもん勝ちのような風潮があります。
□成約後のデータも不透明
レインズに登録されるはずの売買の成約価格もデータの欠落があります。中古物件をリノベーションして再販するビジネスでは、競合会社やリノベ物件の買主に原価を知られぬよう形式的に専任契約を解除するというズルが横行しています。
□新しい動きに後ろ向きな日本の不動産業界
レインズは国が指定する東日本不動産流通機構など4つの公益法人が運営しています。アクセスできるのは原則加盟会社だけです。物件査定などで革新的なビジネスを展開する不動産テック(「不動産+テクノロジー」:不動産業界でITを活用し、業界の問題解決を図る)業などには門を閉ざしています。新規参入企業や一般のお客さんが得るデータが増えると業者の「物件情報ほぼ独占状態」が脅かされるおそれからくる排他的な姿勢です。(参考 注目のスタートアップ企業を紹介しているサイト:【厳選】注目の不動産テック10社ご紹介! | Amateras Startup Review)
これまで1日がかりで行政窓口を回っていた情報収集がシステム上で終わるなら業者にとってもメリットは大きいはずです。しかしそれによって他の業種にもデータ連携によって情報が透明になりすぎることは避けたいという防衛本能が働くのです。アメリカもかつては外部とのデータ連携を制限していましたが、統括団体が2005年に司法省から独占禁止法違反の疑いで起訴され和解した後、不動産テック企業が成長しました。不動産サービス大手ジョーンズラングラサールの2020年の調査によれば日本の不動産市場の取引プロセスの透明度は世界38位。先進国の中では最低レベルです。不動産市場は40兆円といわれていますが、その構造改革を議論すべきところまで問題は迫っています。